強くて弱い最高の女達
佐藤麻優子
映画が好きかと聞かれると、いつも困る。「好きですがそんなに詳しくないです。」と答える。今回のテーマはファミレスだと聞いたとき真っ先に思い浮かんだのは、ベタかもしれないが「パルプ・フィクション」だった。
わたしは映画も音楽も、カルチャー好きの基本とされるような作品を大人になるまでだいたい知らなかった。例えば音楽で言ったら「ニルヴァーナ」とか「くるり」とか。映画で言ったら「時計じかけのオレンジ」とか「2001年宇宙の旅」とか。「2001年宇宙の旅」に至っては未だに観ていない。話に出てくることがあまりに多く、もはや観たふりをしてしまう事すらある。すみませんちゃんと観ます。わたしにとって「パルプ・フィクション」は元々そんな、ド定番に位置しているのに知らない映画の一つだった。
物語はファミレスから始まりファミレスで終わる。サイコーな始まり方と終わり方だと思う。映画全体の感想としては正直、この作品が大好きというわけではない。しかし、この作品に出てくる女性キャラクターはどの役も大好きだ。ほんの少ししか登場しないタクシー運転手のスペイン女性も。タランティーノ監督の描く女性はどの作品でも、丁寧に描かれている。どこかタガの外れている、強くて弱い魅力的な女の人たち。
わたしはマゾの心を持っていない男性が苦手だ。どうも感受性が貧しいと感じてしまう。お酒の席で、「絶対Mでしょ??俺Sだからわかるんだよね」とかなんとか言ってくる自称サドの男性は、だいたい総じて話がおもしろくないし何も見えていないことが多い。男性に限って書いてしまうのは、わたしが生い立ちの関係もあってか昔から女性至上主義へと傾きぎみなので許してほしいけれど、恐らくそういう女性も同じく苦手だと思う。なぜ急にSMの話を書いたかと言うと、タランティーノ監督はマゾの心を持っている人だと作品から感じるからだ。
この映画はオムニバス形式ではあるけれど、あの有名なビジュアルにもなっているミア(ユマ・サーマン)がヒロインだと言っていいと思う。ミアは劇中、50’sをテーマにしたレストランで「私の夫であなたのボスのマーセルスが言ったはずよ。私を外に連れ出し、望むことはなんでもしろって。私は踊りたいの。そして勝ちたいの。あのトロフィーが欲しいの。うまく踊ってよ」と言う。映画を観直していてこのセリフを聞いた時、最近友人の男の子が話していたことを思い出した。「踊っている女の子が好きなんだよね。とても自由で美しい瞬間だと思う。男の子にとって生きやすくできたこの社会の中で、男の子は少年の心を持ったまま大人になれることが多いけれど、女の子は難しいように見える。でも、踊っている瞬間は無邪気で自然に近くて。そしてそれが男である自分がいることでより自由になれていたら嬉しいし、これからはたとえ女の子1人でもみんなが自由に踊れる社会になってほしいと思う。自分は男だけれど、もっと勉強したいし協力したい。」
性別のある身体に関係なく、魂の形が見える瞬間がわたしはあると思うのだけれど、ここでの”踊っている”というのはそういうものだと思う。そして、タランティーノ監督の映画では女の子が”踊っている”ことが多いのだと思った。
佐藤麻優子
1993年3月7日 東京生まれ、埼玉県育ち。専門学校 桑沢デザイン研究所中退。第14回写真「1_WALL」グランプリ。個展に「ようかいよくまみれ」「生きる女」など。主に人物を被写体とし、現実から”数センチズレた”違和感を感じさせる写真を制作。