映画館、Good place to escape
柿沼節也
私がドライブインシアターを初めて体験したのは2018年3月、アメリカの多分オクラホマ州だったと思います。友達といわゆるアメリカ横断ドライブをしている最中でしたが、一度くらい体験してみたいなと思って寄り道しました。そこでドハマり!
まず料金は映画2本立てで一人5ドルという安さ。広大な土地に来場台数3台という開放感(しかも途中で一台帰った)。ポップコーン・エクストラバターとドクターペッパーの無限ループ。タバコ吸い放題。喋り放題。寝放題。しかも寝落ちしたら朝まで寝てから帰ってもいい。
「地上の楽園見つけた!」と大興奮。
そこからドライブインシアター巡りの旅が始まりました。友達は一足先に日本に帰ったので私一人で南はフロリダから北はバンクーバーまで、北米の営業中のドライブインシアターを巡りました。
実はアメリカのドライブインシアターは冬が寒すぎて夏季しか営業しないところが多いのですが、客が来ない中でも根性で通年営業しているところを探して回りました。12館ぐらいは訪れましたが、アメリカ広しと言えどもロードショー中の映画はだいたい同じで「レディ・プレーヤー1」を5回も見たのはいい思い出です。
日中車を数百キロ走らせ夕方目当てのドライブインシアターに到着、そこで売られているピザやバーガー、ホットドックを食べてそのまま眠り、翌日のお昼前に誰もいないドライブインシアターで目を覚ます。昼間見るスクリーンはいつも小さく見え、敷地は夜より広く感じました。今思うととても贅沢な時間の過ごし方だったと思います。
貧乏な旅行者に映画と食べ物と寝床そして何より安心感を提供してくれる、こんな懐の深い場所は初めてでした。
その中でも特に印象に残っているのはテキサスにあるドライブインシアターです。そこはハイウェイ沿いのアダルトショップに併設されたドライブインシアターで、毎晩巨大なスクリーンに国産ポルノDVDを流す「ピンクドライブインシアター」でした。
メジャーリーグ級のグラウンドに700インチはあろうかと思われるスクリーンが屹立し、そこに映るド迫力無修正ポルノを見たことは人生における自慢していい数奇な体験ベスト10には入ってくると思いますが、翌朝そのドライブインシアターのGoogleレビューを見ていたら「Good place to escape.」(逃避するに適した場所)というコメントがありました。
以来、その言葉をことあるごとに思い出します。
今の時代、この日本に「逃げられる」場所っていくつあるのだろうか。
もちろん、人それぞれ逃げ込める場所はいくつかあると思うけど、誰でも匿ってくれる場所って思ったより少ないんじゃないだろうかと考えるようになりました。
映画を見るってある意味逃避だし救いでもあると思いますが、その映画を流す映画館も少なからずそういう意味を持っていたと思います。私にとっては浅草の名画座がそんな場所でしたがもうありません。あそこでずっと寝ていたおじさんたちはどこへ行ったのだろう。
そんなこんなで、みんなが逃げて来られる場所としてこの時代にドライブインシアターをつくるのは面白いんじゃないか、とかそんなことを考えながら常設化を目指して活動をしています。イベントだとなかなか伝わらないのであんまりこういうコンセプトは前面に出していないけど、実際に来てくれた人にこの感覚が少しでも伝わればいいなと思っていますので、開催の際はみなさん是非、擬似テキサスを体験しにいらしてください。ポルノは流せませんので悪しからず。
柿沼節也
ドライブインシアターをつくる会 代表