還る味
城戸 尚子
最近食べた料理は再現できても子どもの頃に何気なく食べていた料理は意外と難しい。恐らくどのように作られていたか意識していなかったから。
『はちどり』のウニは、家族は自分に無関心で家にも学校にも居場所がないと感じている。餅屋を営んでいる両親は忙しく、子供たちひとりひとりに向き合う時間はない。特に末っ子のウニは一番後回しだ。学校から帰った際テーブルの上に用意されているのは、冷めたジャガイモのチヂミとヨーグルト。美味しいとか不味いじゃない、ただそこにあるから、食べる。「またコレか…」なんて思いながら。
けれど家族で囲む食卓から、彼女の目には無関心な母親でも実は子供たちのことを不器用なりにも気にかけていることがわかる。チャプチェ・キムチチゲ・青菜のナムル・たまご焼き、他にも色々4品近く…惣菜の数はかなり多い。
韓国の映画やドラマを見ていると一度にまとめて惣菜を作り置きする習慣があるとはいえ、仕事をしながらこれだけの数を作るのは容易ではない。更にそっとウニのごはん茶碗の上におかずを乗せてやる些細な動作からも、大切に思っていることは伝わってくる。でも自分のことで手一杯のウニは下を向いていて気づかない。そんなある日、漢文塾の先生ヨンジとの出会いをきっかけに少しずつ周りのことが気になり始める。
ラスト近く、母親がウニのためだけに焼いた熱々のチヂミは素手で持てず箸を使う。冒頭に出てくる冷めたものと味は同じでも、二人でぽつりぽつりと話しながら食べたチヂミはウニの心とお腹を温かく満たしただろう。
「つらい時は指を見て一本一本動かすの。何もできないようでも、指は動かせる」
私はつらくて息が詰まりそうになると台所へ立ち手を動かす。包丁を握り、火を使い、目の前の事に集中しているとそれまで悩んでいた事を、たとえ一時的であっても手放す事ができるから。そんな時ふと食べたくなる…初心に還る味は母が作ってくれた、煮干しがそのまま入った味噌汁だ。ウニにとっての、ジャガイモのチヂミのように。
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ジャガイモのチヂミを食べたことがなかったので、どんな味か知りたくて実際に作ってみた。ジャガイモをすりおろしてザルに上げ、水気をきる。しばらくすると水分とでんぷん(いわゆる片栗粉)が分離するので、水分は捨てて残ったでんぷん・すりおろしたジャガイモを混ぜ、丸く広げてフライパンに油を熱して焼く。もちっとしているポテトチップスみたい。素朴なおやつ。
私はジャガイモと玉ねぎを入れたけれど、ウニ、あなたのお母さんは刻んだ人参も少し入れていたみたいね。油はたっぷり、多めで。まわりがカリッとするように焼くと美味しいね。
『はちどり』
配給:アニモプロデュース 配給協力:ギャガ GAGA★
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城戸尚子
映画館勤務を経て、居酒屋 婆娑羅(バサラ)焼き場担当
Instagram @basara1982