時計と僕のヒーロー
大矢哲紀
朝、目が覚めて時計の針を見ると、7時半をまわっていた。 大学生にとっては1時限目の授業に間に合うか否かギリギリの時間。 僕は急いで準備をして家を飛び出した。 人間は誰しも時間に追われていて、ありふれた日々の大切さを見失いがちになる。 だからこそ、大切なのは「今」を一生懸命に生きることだ。
幼い頃からヒーローに対して強い憧れを持っていた僕には、お気に入りの映画がある。 それはマーク・ウェブ監督の『アメイジング・スパイダーマン2』だ。
「時間」をテーマにした本作は、『(500)日のサマー』『gifted/ギフテッド』などで様々な 「愛」を描くことに定評のあるマーク・ウェブ監督作品というだけに、数多あるヒーロー 映画とは一線を画している。
腕時計のアップから始まり、印象的に差し挟まれるスローモーション、そして、時計台で 繰り広げられるクライマックスの戦い。様々な部分で「時間」を意識させる演出が組み込 まれ、物語においても「ありふれた日々の大切さ」が描かれているのだ。
ヒーローという“大いなる責任“を背負ってしまったがゆえに苦悩する青年・ピーター。 彼は本作を通じて、幾度となく「死」という大きな壁にぶち当たる。それは両親の「死」 であり、恋人の父の「死」であり、そして、ある人物の「死」である。大きな喪失感から 、ついには自分の生きる意味でさえ失ってしまう彼だったが、故人がかつて残した言葉は 彼を再び立ち上がらせることになる。
「私たちの人生は永遠ではありません。やがて終わるからこそ貴重なのです。」 「明るく苦しみを乗り越え、あなた方自身が希望になってほしい。」
大学の授業で「人間は日常性に埋没して生きているが、それは本来のあり方ではない」と いうハイデガーの思想を聞いたことがある。「死に向かう存在であることから目をそらさ ずに生きることで、人間は本来のあり方を手にするのだ」と。 それは、まさしく本作におけるメッセージにも通じているのではないか。
僕がヒーローに強い憧れをもつ理由。それは僕自身が決して強い人間ではないからだ。 大切な人との別れを経験するたびに心が折れそうになるし、時には自分の生きる意味でさ え見失いそうになる。 しかし、そんな時にこの映画は「今」を一生懸命に生きることの大切さを教えてくれた。
時間に追われながらも急いで大学へ向かう日々。 それは嫌になるほどありふれた毎日の繰り返しだ。 けれど、時々でいいから、その大切さを噛みしめて生きていたい。 きっと、それができれば、大切な人とのお別れも無駄にはならないと思っているから。
大矢哲紀(おおや てつき)
大学3年生(就職活動中)、兵庫県神戸市生まれ。映画が好きだった母に影響され、地元・関 西で様々な活動に取り組むようになる。映画チア部、第8回関西学生映画祭委員長、関大 映研OB。趣味は映画のパンフレットを集めること。